番外編ブックガイド 失踪映画

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  •  近浦啓監督 『コンプリシティ/優しい共犯』日本/中国 2018
  •  藤元明緒監督 『海辺の彼女たち』日本 2020

今回は、書籍ではなく技能実習生の失踪者を取り上げた映画を取り上げてみたい。いずれも、物語は過酷な労働環境の職場から、技能実習先が夜陰に乗じて脱走するところから始まる。そして描かれているのは、失踪者になってしまった若者が、彼らに必ずしもフレンドリーではない異国で生きることの「おののき」である。

中国人が主人公の①では、技能実習生(演じているのは中国の俳優ルー・ユーライ)が、失踪して別名の中国人になりすまし、山形の田舎町のそば職人(藤竜也)のもとで働き始める。不法滞在がばれなければ、安定した生活と一定の収入が確保できるし、この収入こそが中国からわざわざ日本に出てきた目的である。しかし、日本人ブローカーや中国人の失踪者コミュニティなどとの関係を清算することは困難だし、日本の公的サービスにアクセスしようとすれば身分偽装が明らかになり、せっかく順調に進み始めた生活は崩壊する。この事実を当初は知らなかったそば職人や女友達は、多くの普通の日本人の姿であろう。

二年後に製作された②では、日本での失踪者のランキングの変化を反映するように、ベトナム人の三人の女性(いずれもベトナムの女優が演じている)が失踪者となり、ベトナム人ブローカーの手引きで青森の漁村の水産加工場に流れ着く。加工場での労働はさほど劣悪ではないものの、やはり日本人がやりたがらない仕事で、飯場のような粗末な寮で雪の降る厳寒の日本に適応するのも一苦労だろう。そして作業の失敗に対して浴びせられる「邪魔するならベトナムに帰れ!」はおそらく日本中の技能実習生が浴びせられている罵声なのだ。

三人のうちの一人が妊娠していることがわかり、医療へのアクセス困難、出産するのか帰国するのかという課題に直面するシーンは、実際に2020年にベトナム人実習生が嬰児を死亡させた事件と重なる。ここでも受診のために高額の偽造IDが用いられ、堕胎薬を調達する闇ルートが登場するが、「失踪者」を顧客とする裏ビジネスが跋扈していることが示唆されるのは①も同様である。

相違点は①では日本人(そば職人や女友達)の視点から失踪者が描かれているのに対して、②ではあくまでベトナム人の視点から彼らを取り巻く世界が描かれている点である(明確な名前を持った日本人は登場せず、ブローカーも日本語が堪能なベトナム人である)。他方、両作品に共通しているのは、もともとの『職場』の職場環境や人権侵害についてはほとんど触れられず、技能実習制度の矛盾について正面から問いかけているわけではない点である。

日本に住む外国人が自らの生活を守るには様々な障害があることに、支援団体のみならず、行政も一般国民もようやく気づき始めている。両作品は、こうした背景のもとに必然的に生まれたのだが、そろそろ「実習現場」をモチーフとする映画も必要ではないだろうか。

普通の日本人(極悪非道の悪人ではない)が外国人差別、人権侵害を「無意識に」行ってしまっている、その背景を描く映画の登場を期待したい。その時初めて、外国人の「生きにくさ」の原因は、我々「普通の日本人」の心のありようにあることが明らかになるだろう。(了)

佐藤寛(アジア経済研究所)

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