第8回ブックガイド 入管制度の痛みを共有する

ブックガイド
  • 織田朝日『となりの難民 日本が認めない99%の人たちのSOS』旬報社 2019
  • 中島京子『やさしい猫』中央公論社2021

どちらも日本人女性によって書かれた、日本国内にいて身分が不安定な外国人についての本である。①は筆者がそうした外国人支援活動を行う中で書き記した小さなエッセイの蓄積であり、②は小説である。そしてどちらも読者の胸に、繰り返しさざ波を掻き立てる。共通するテーマは「入管(入国管理局/出入国在留管理庁)」であり、どちらも日本の入国管理制度、難民認定制度を初心者向けに解説しており、難民、移民問題の初心者にとっての入門書としての役割も果たしている。

『となりの難民』の著者織田朝日氏は、2004年から難民支援活動を継続している。本書の中で紹介される彼女の主たる支援手法は「面会」である。入管の収容施設に足を運び、(無期限収容のため、いつ解放されるかのめどが全くなく)収容されている様々な外国人に面会して彼らの話を聞く、という地道な支援である。本書はそこで見聞きしたことを淡々と書き連ねることで、入管に収容されている人々の身に降りかかっている理不尽な、非人道的な、そしておそらくは「恥ずべき」日本国の難民政策を浮き彫りにしていく。

筆者自身も書いているとおり、本書の内容はこれまで移民・難民問題に触れる機会がなかった人にとっては、「こんなひどいことが現代の日本で起きているなんて信じられない」と叫びたくなるような事例の積み重ねなのである。ありえないごはん(p.114)、ありえない医療放置(p.117)、ありえない懲罰房(p.118)という入管の三大問題のいずれも、筆者は直接経験することができないものだが、それを多くの収容者の聞き取りから浮かび上がらせる。それを筆者はつとめて感情を押さえて、柔らかく語るのだ。

面会以外にも、筆者は日本で育った難民の子供たちのいじめ問題のために自ら学校に相談に出向いたり(p.159)、クルド人の子供たちと劇団を作って演劇を上演したり、ツイッターでこうした問題を継続的に発信したり、難民を題材にした写真展を開催したりという活動を15年以上継続している。そのエネルギーには脱帽するが、活動の白眉はやはり「面会」だろう。

希望を持つことを禁じられて収容されている人々に、苦しみ、悲しみ、恨みを吐き出す機会を与えることは、彼らにとっては大きな支援になるのは間違いない(p.112)。しかしそれを「聞く」側のダメージは尋常なものではないはずである。筆者も「面会は神経をすり減らし、いつも帰りには頭がガンガン痛みます」(p.185)と書いている。

『やさしい猫』は、多くの書評にも取り上げられ話題になった本である。夫に死別した日本人母子家庭の娘マヤが語る、彼らに舞い込んだトラブルの話である。トラブルは、母(ミユキさん)が日本で働いているスリランカ人(クマさん)と結婚しようとしたところから始まる。その後はネタバレしないように中略するが、そのクマさんがある日オーバーステイ(=非正規滞在)で入管に収容されてしまう。母子はなぜそんなことになるのか、(周囲の90%の日本人と同じように)全く見当がつかない。そしてクマさん本人のみならず、日本人である母子も入管や裁判所で「ありえない」扱いを受けることになる。その過程で日本の入管制度、在留許可制度を学んでいき、弁護士(ハムスター先生)の助けを借りつつ在留特別許可を求める裁判を起こす。そのプロセスが、ハラハラドキドキ、かつ読者に入管制度の理不尽さに憤りを炸裂させる筋書きになっているのがこの小説の山場である。感情移入しながら、日本の難民政策の問題点を学べる、という意味で本書は外国人問題の格好の入門書としても使えるだろう。

主人公のクマさんは、留学生として正規入国し、日本語学校→専門学校という王道を経て自動車修理工場に就職できたにもかかわらず、会社の倒産によって在留資格を喪失するというケースなのだが、サイド・ストリーリー的に登場するマヤのボーイフレンド(p.157)は日本生まれ日本育ちの「仮放免」のクルド人少年で、このエピソードを通して「クルド難民」「仮放免」についても学べるようになっている。筆者の入念な取材の成果が表れている部分でもある。

紹介した二冊とも、入管を主な舞台としており、大多数の日本人がこれまでほとんど無関係に過ごしてきた世界を垣間見せてくれる。そしてメッセージも共通している。それは、「《普通の日本人》に、この国で現在こういうことが起こっていることを知ってほしい」、そして「日本にいる外国人を巡る制度の課題に無関心であることは、知らず知らずのうちに、制度に「荷担」することになる」ということだ。 この警告を、私たちは真摯に受け止めるべきではないだろうか。

佐藤寛(2022/2/10)

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