コラム:責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)

外国人の日常生活を知ろう

 JICAとASSC[1]が主体となって設立された「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」は2020年11年の設立から間もなく一年になる。この団体がユニークなのは、第一に「途上国に対する開発協力」を主たる業務とする国際協力機構(JICA)が日本国内の外国人労働者問題に取り組み始めたこと、第二に企業その他の民間アクターとの協力(資金面の支援も含む)でプラットフォームを運営しようとしているところにある。

 みんなの外国人ネットワーク(MINNA)としても、このプラットフォームの成り行きに関心をもっているので、先日JP-MIRAIの司令塔であるJICAの宍戸健一上級審議役にお話を伺った(なお、以下の記述はインタビューをもとにMINNAのメンバーである佐藤寛の見解を述べたものであり、宍戸氏並びにJICAの見解を直接反映するものではない)。

本格始動の準備中

 JP-MIRAIの会員数は設立時は51団体・個人であったが、現在220団体、115個人(2021/10/6現在)と増加している。会員の大半は民間企業であるが、中小企業は必ずしも多くない。本来このプラットフォームには、外国人を直接雇用している企業、あるいは自社のサプライチェーンに外国人を雇用する事業所がある企業に参加してほしいのだが、その数は約40社程度であり、今後参加を拡大するべく商工会議所などに働きかけるなどの努力をしていると聞く。

多様なステークホルダーのニーズ

 このプラットフォームに参加しているステークホルダーは、それぞれ異なる利害関心を持っている。大企業は国際的なマーケットで製品を販売するためには、自社のサプライチェーン上に外国人労働者の人権侵害などの「倫理的リスク」が発生することを恐れており、こうしたリスクを排除するべく、倫理的/持続可能なサプライチェーン・マネジメントの追及に踏み出している。

 他方で、技能実習生の受け入れ監理団体、送り出し機関、それに実習生を受け入れる地方の中小企業のニーズは、「良質な技能実習生の確保」にある。もちろんそのためには、受け入れる側の労働条件を整えなければならないことは認識しているが、限られた資源の中で実力以上のことはできない、と感じている。

 また、JP-MIRAIには外国人問題を専門に扱っている弁護士や支援団体もメンバーに入っているが、彼らは日本政府の外国人受け入れ政策に、意味のある政策提言をする場を求めている。

 こうした多様な指向性を持つ加盟団体の間で、一定の方向性を出していく作業の困難さが並大抵のことではないことは、容易に想像される。

手数料ブローカーの位置づけ

国際的な人権団体などは、移住労働者(日本に来ている技能実習生や「偽装」留学生も含む)が、本国から旅立つためにブローカーに支払う「前払い金/保証金」を認めない方向に国際世論を誘導している。これが徹底できれば「逃げ出したら補償金を没収される」「解雇されたら、国で作った借金を返済するめどが立たない」などの理由で、劣悪な労働環境に耐え忍ばなければならない、という状況は減るだろう。この意味で「前払い金の禁止」は人権擁護の観点からは、望ましい方策である。

しかしながら、労働者や留学生の送り出しも途上国における重要なビジネスであり、また日本での受け入れもまたビジネスである。各会員団体が目指しているレベルは様々であり、手数料ゼロを目指している会員もいれば、法的に認められた範囲であればやむを得ないとする会員もおり、それぞれの体力に合わせ、底上げを図っていく方針のようだ。

労働者の声

JP-MIRAIのホームページには、このプラットフォームの機能として、「外国人労働者に適切な情報を提供するとともに、直接「外国人労働者」の声を聞くことを通じ、現場で生じている課題の解決策について検討し、諸機関と連携します」という文言がある。これは、誰しもが望む非常に高い理想像である。多くの企業も外国人労働者の本当の「声」を知りたいと願っているに違いない。ある意味では、加盟企業がこのプラットフォームに参加する最大の関心はこの部分にあると言えよう。

現在、事務局を担うJICAはこの「労働者の声」を聞くためのツール(ポータルサイト)の開発に尽力している。ポータルサイト完成後は、当面の間、JICA予算で維持する予定だが、その後のパイロット事業(人権デューデリジェンスや救済メカニズムの構築)の実施予算については企業や業界団体などからの寄付金を集める必要があるが、事務局は苦労しているようである。

政府の期待と業界の期待

日本の移民労働者対策、特に技能実習制度については米国務省から、毎年のように「人権侵害」「現代の奴隷労働」というありがたくない評価を与えられており、これを放置することは政府としても、また産業界としても不名誉なことであり、こうした批判を生まないように「責任ある外国人労働者受け入れ」のあり方を確立することも、切実に求められている。

JP-MIRAIのホームページに日本の関係者が外国人労働者のより良い受け入れに取り組んでいることを発信し、日本の評価を高めるとともに、外国人労働者に日本を選んでいただけることを目指します。》とあるのは、まさにこの目的を示している。とはいえ、JICAがこの事業に割ける人材や予算が限られている中、企業関係団体からの大きな期待と現実のはざまでも、事務局は苦労しているようだ。

また2011年の「国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」に基づいて、昨年(2020年)10月にようやく公表された、我が国政府の「国別行動計画」では、政策課題と共に政府から「企業への期待」が述べられている。政府だけではハンドルが難しい部分は民間企業の努力に委ねる、という意思表明とも言える。

企業としては、もう少し政府のイニシアチブに期待したいという声も聞かれる中、独立行政法人であるJICAが乗り出してくれたので、このプラットフォームやJICAのイニシアチブに大きな期待が寄せらせるのも自然な流れである。

苦情処理メカニズムの構築

UNGPの三本柱は、①人権を守る「国家の義務」、②人権を守る「企業の責任」、③救済へのアクセスの保証、である。現在、企業のサプライチェーン・マネジメントで喫緊の課題は三番目の「救済へのアクセス」と「苦情処理メカニズム」の構築である。

企業にとっては「人権リスクの炎上」は最悪の事態である。人権侵害が表ざたになってからでは裁判の費用や時間が膨大なものになるだけでなく、レピュテーション・リスク(消費者、投資家、従業員、求職者からの信頼の失意)は膨大なものになるため、企業にとってのダメージは大きい。そればかりでなく訴える側の労働者にとっても、時間・エネルギーのロスが大きく望ましくない。であれば、人権侵害の芽を早期に発見すること、それを早い段階で解決することが必要で、苦情処理メカニズムの構築は最初の一歩となる。

ただしそのためには専門家集団を組織しておく必要があるが、これは大企業であっても一社単独でできることではなく、業界全体の連携、サプライチェーンの上流企業と下流企業の連携、さらには労働者や農民を支援する市民団体との連携も必要な作業である。JP-MIRAIの参加企業はこの役割をプラットフォームが果たすようになることを期待しているのであろうが、このような機能充実に向けて事務局はNGOや労働組合などとのネットワークを構築していこうとしている。

現在、日本ではいくつかのグループがこうした「苦情処理メカニズム」のパイロットプロジェクトを企画しているが、どこも資金面・人材面の課題を抱えている。

いかにして凝集力を高めるのか

JP-MIRAIは外国人労働者受け入れに係る多様なアクターの集うプラットフォームを志向している。プラットフォームは、多くの関係者が集えば集うほど、事例も経験も蓄積され、問題解決のコストがどんどん低くなって効率的になるという性格を持っている。

しかし、実績のないプラットフォームには大企業が「お試し」的に付き合ってくれたとしても、そのお試し期間が過ぎれば凝集力が失われてしまう危険性がある。

外国人労働者の人権問題や、サプライチェーン・マネジメントをめぐっては近年日本国内でもそれを専門とするコンサルタントなどが生まれているが、まだまだ十分な実績はない。こうした状況の中でJICAという公的機関が「責任ある外国人労働者の受け入れ」に関与することの意味は、一層大きい。

これは、ある意味ではあえて火中の栗を拾いに行くような挑戦である。この果敢な挑戦を開始したJICAの決断を無駄にしないためにも、私たちも、可能な範囲での協力・共同作業に尽力していきたいと思う。

佐藤寛(2021/10/19)

[1] 一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン

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