『新移民時代 外国人労働者と共に生きる社会へ』明石書店 西日本新聞社編 2017
西日本新聞社は、福岡に本社を置き九州七県で66万部の発行数を誇るブロック紙である。本書は同紙で2016年から連載された同名のキャンペーン報道記事をもとに取りまとめられたもので、同書の帯には「外国人労働者が100万人を突破」とあり、本書ではそのうちの約二割が留学生、二割が技能実習生と指摘している。
本書は2016年に外国人労働者が100万人を超えた事実と、その主力となる技能実習生、出稼ぎ留学生が、どのような状況に置かれているのかを、地方紙ならではの取材力を生かして丁寧に報告した好書である。
こうした報道が九州で始まったのは偶然ではない。現在でも労働力に占める技能実習生の割合が高い県は九州、四国地方に多く、九州で外国人労働者問題が最初に顕在化したのはある意味で必然なのである。
本書の構成は、第一章「出稼ぎ留学生」で九州地方で働く外国人留学生の課題を指摘した後、その送り出し国では「送り出し」がビジネス化していることをネパールの事例から報告し(第二章)、他方こうした「出稼ぎ目的」の留学生を受け入れることもまた日本でビジネス化していることを指摘する(第三章)。第四章で九州地方で働く技能実習生の実態、五章でそれ以外の資格も含めて日本で働く外国人労働者の実態を紹介し、第六章でアジア各国の移民労働者政策を概観する。第七章では外国人労働者と共に働くことで発生するトラブルに目を向け、第八章で異文化共生へのヒントとなる事例を提示する。
本書は、比較的早い段階で「外国人労働者」問題が、日本人のミクロレベルでの日常生活に与えるインパクトに対して「早期警戒警報」を鳴らしたという意味で意義が高く、示されている個々のエピソードは「足で稼いだ」ものが多い。外国人労働者をめぐる制度は2017年以降何度か変更されているが、本書が指摘している制度的な欠陥については抜本的な改正には至っていない。 日本での蓄財を夢見る途上国の若者、それをビジネスのネタとする送り出し機関、彼らを受け入れることで利潤を上げる「受け入れビジネス」「学校ビジネス」、そして彼らを「安い労働力」としてしか理解しようとしない経営者、さらには彼らが生きていく近隣コミュニティーの日本人たち。主要なアクターが抱える課題を棚卸しているという意味で、外国人労働者問題を知るための適切な「入門書」と位置付けることが出来よう。 佐藤寛(アジア経済研究所)
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