第5回ブックガイド 団地から考える日本の未来と移民

ブックガイド
  • 安田浩一『団地と移民』角川書店 2019
  • 大島隆 『芝園団地に住んでいます』明石書店2019

外国人が日本にやって来て、最初に直面するのが「住まい」の問題である。最初の数日はホテルで過ごせても、生活し働き始めると住まいをいかに快適に、かつなるべく安く確保するかに苦労する。そして同じ住むなら同邦人が近くにいた方が安心だし、本国の食材などを売る店が近隣にある方が良い。こうして特定の地域に外国人が集積しがちである。この意味で公営団地は、定住志向の外国人労働者がたどり着くゴールの一つだが、外国人の団地への集中は、もともと住んでいた日本人との間に様々な軋轢を生みだす。今回紹介する二冊はこの軋轢に焦点を当てて、移民問題をめぐる「周辺の日本人」の問題を照らし出している。

在日外国人労働者について既にいくつかの著作がある安田による①では、高度成長時代に日本に誕生した団地の意義を振り返りながら(松戸常盤平団地、神代団地)、高齢化し活力を失う現状を描く(第一章、二章)。その上で埼玉の芝園団地における中国人住民の増加と日本人との葛藤、共生に向けた動きなどを紹介する(第三章)。パリの郊外団地でも同じような問題があることを指摘(第四章)した後、かつて原爆スラムと言われた広島の基町(もとまち)団地が、残留孤児の帰国後の拠点となったことで周囲の住民の反中国感情を刺激していること、それを乗り越えようとする努力などが紹介される(第五章)。愛知県保見団地は日系ブラジル人が多く、家族帯同者も多いことによる教育問題、地元の若者とのトラブルなども発生しており、ここでも様々な共生への試みが行われていることを紹介する(第六章)。

新聞記者である大島隆による②は、上記①でも紹介されている川口市の芝園団地に実際に住み、団地自治会にも属してフィールドワークをした「住民視点」のルポである。川口市芝園町の人口は約五千人で2015年には外国人住民の数が日本人を上回っているという。その大半は日本企業に定職を持っている中国人で、それ以外の国籍の人もいる。団地内商店街には中国食材の店や中華料理店もある(第一章)一方、ここでも日本人住民は高齢化し、日常的には日本人と中国人住民の間に接点がほとんどない。団地の夏祭りの準備を通して「二つの世界」のすれ違いを指摘(第二章)し、外国人住民との距離を置く日本人住民の気持ち(もやもや感)を分析する(第三章)。他方で中国人住民にも距離感はあるが、日本人と交流したいという潜在意識を持っている人も多いことを指摘し(第四章)、大学生が触媒となっている共生促進のための「かけはしプロジェクト」を紹介する(第五章)。観察者でもあり、居住者でもある大島は、表面的には平穏な中に反外国人感情がいつ炎上してもおかしくない雰囲気を感じ取り、現在の芝園団地に「危ういバランス」を見ているようだ。

外国人人口が2%を超えて3%に迫る日本全体の状況の中で、50%を超えている芝園団地を特殊例として片づけることはできない。①の安田は「限界集落化した団地を救うのは外国人の存在かもしれない」(p.252)と言い、②の大島もまた「芝園団地は世界のいまであり、日本の近未来である」(p.217)と記している。高齢化する日本社会の不可欠な構造として外国人のいる風景を理解するためには、団地は多くの事を教えてくれる最前線なのだ。(了)

佐藤寛(アジア経済研究所)

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