外国につながる子どもたちの物語編集委員会・編 みなみななみ・まんが
a)『まんが クラスメイトは外国人 多文化共生20の物語』2009 明石書店
b)『まんが クラスメイトは外国人 入門編』2013 明石書店
c)『まんが クラスメイトは外国人 課題編』2020 明石書店
在日外国人労働者をめぐる書籍では、彼らのおかれている労働環境の劣悪さや社会的サービスへのアクセスの困難さをめぐるミクロ的なルポルタージュか、マクロ的な視点からの経済効果や政策提言などを扱うことが多い。しかし時間軸を長くとるならば、外国人労働者が帯同する、あるいは呼び寄せる子どもたちが日本社会にどのようなインパクトをもたらすのかは、日本社会の未来にとって重要な話題である。確かに、昨今話題になることが多い技能実習生、「偽装」留学生の多くは若く単身なので「子女教育」の問題はすぐには生じない。しかし彼らのうちの一部でも日本で就職するようになれば家族を呼び寄せたり、日本で結婚して(あるいは婚姻関係がなくても)子どもが生まれることは必然の未来である。
一連のシリーズを編集している「外国につながる子どもたちの物語編集委員会」は、六人の中・高・大の教員で構成するグループで、彼らはすでにそれぞれの職場でこの「必然の未来」に直面している。三冊とも彼らが見聞きする「外国とつながる子どもたち」と「日本人」の間のズレを示すエピソードを入り口として、多文化共生のあり方を問いかける構成になっている。a)とb)にはそれぞれ20話、c)には10話のエピソードが紹介されているが、いずれも編者やその周囲の人びとが実際に直面した具体的な事例を下敷きとしているために、読者に訴えかける力が強い。そしてほとんどの日本人の大人達は、現在の日本の学校教育のなかに「外国につながる子どもたち」が浸透していることに驚くことだろう。
どこに住んでいようと学ぶことは子どもの権利である、と考えるなら「子どもの権利条約」を批准している日本は、たまたま日本にいる外国籍の子どもの学ぶ権利も保障するべきだ、と言うのは正論である。しかしこの正論は、日本人だけの学校に学び、日常的に日本人だけで暮らしていけた世代の人びとにとっては、あまりにも極端な発想と受け取られるかもしれない。日本社会はまだその覚悟が出来ていないのかもしれない。b)のあとがきにある「多くの先生は・・受け持つクラスに外国人はいてほしくないと思っている」という述懐は、けっして特定の教師の「意識の低さ」を示すのではなく、日本社会全体にその用意がないしわ寄せが教室(クラス)に凝縮することへの悲鳴なのである。
しかし、いかなる政策を取ろうとも「外国人労働者」を受け入れている限り、外国とつながる子どもたちは確実に増えていくのであり、教室は覚悟と準備のないままに「必然の未来」を迎えようとしている日本社会のリトマス試験紙なのかもしれない。そして、そうした子どもたちが明るい将来を切り開いていけるように力づけることは、日本社会の安定のために必要というだけではなく、彼らがどこに巣立っていこうともグローバル社会の一員としての日本の責任と言えるのではないだろうか。(了)
佐藤寛(アジア経済研究所)
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