希望するすべての人にワクチンを:ホームレス状態にある人たちを支援する取組み

インタビュー
NPOによる生活困窮者へのワクチン接種アンケート調査

認定NPO法人「世界の医療団」は、生活困難者への支援を行うハウジングファースト東京プロジェクトのパートナー団体と協働しながら、豊島区池袋周辺でアウトリーチ活動(夜回り)や医療生活相談を続けてきた。同法人は、豊島区の新型コロナワクチン接種担当者とホームレス状態にある人のワクチン接種について協議の最中にある。5月下旬、豊島区内の公園で生活困窮者約300人への簡単な聞き取りアンケート調査を実施し、「接種を受けたいか」、「接種券を受け取れるか」などを聞いた。33人のボランティアが調査に参加し、筆者もここに参加した。

結果は同法人によって分析中だが、約300人中「接種を受けたいか」の質問に「はい」と回答したのは約6割、「いいえ」は約3割、「どちらでもない、考え中、わからない」が約1割だった。「いいえ」と回答した人のうち、約半数がその理由を「副作用が怖い」とした。聞き取りでは、ワクチンや副作用について誤った情報をもつ人も多く、ボランティアが正しい情報を伝えると「それなら受けようかな」と意見を変えた人もいた。もちろん、ワクチン接種は任意であり、個人の自己決定は大事だが、現状は情報普及に課題があるようだ。

「それどころじゃない」と回答し、生活の中でワクチン接種の優先順位が高くないと思われる人も目立った。アンケートに答えることを拒否した人も多く(実数は不明)全体像の把握は簡単ではないが、上記のように様々な情報が得られた。世界の医療団は、集計結果を豊島区に提供し、役立ててもらう予定だ。

 

「住民登録ベース、申請ベース」という公的サービスの課題

高齢者への新型コロナワクチン接種が進むなか、路上やネットカフェで暮らす人の多くは、行政から発送される接種券を受けとれていない。今後、こうした人への接種をどのように進めるかが課題となっている。接種券を受け取れないホームレス状態にある人について、国は2021年4月末、自治体に対し、自治体で接種が受けられることを周知し、申請があれば接種券を発行して適切に接種を進めるよう通知を出している。しかし、長引く新型コロナ感染症対応に忙殺される行政側からホームレス状態の人との接点を見出し、積極的に情報を提供することは実際には難しいようだ。世界の医療団は、こうした状況の改善に乗り出したものだ。

 

医療生活相談と保健医療サービスへの道筋を太くする

6月11日、アンケート調査に参加したボランティアへの結果の共有と意見交換がオンラインで行われた。その中で、世界の医療団の武石晶子さんは、「社会から疎外されてきた経験から、(サービスを受けることを)最初から諦めている人が多い。医療相談はその先の支援につなげる入口づくりとしてやってきた。今回も、接種の支援だけでなく、その後のフォロー体制づくりにも行政と協力して取り組みたい。これを機に、支援団体と行政が協力する枠組みづくりができれば」と話した。これに対し、みんなの外国人ネットワーク(MINNA)の藤田雅美さんは、「医療・生活相談とコロナワクチンで中心的役割を担う区のワクチン担当や福祉部門とが事例検討を行いながら、枠組みをつくってはどうか」と提案した。その背景として、MINNAとして、コロナで中心的役割を担う保健所と外国人が頼りにする外国人相談窓口とが、事例検討会を重ねるなかで連携するようになってきた経験を紹介した。藤田さんはさらに、「豊島区と世界の医療団の協働をとおして、接種券を受け取れない人に関する単純な手続きのモデルができれば、全国のホームレス状態にある人たちへのワクチン接種拡大に役立つし、さらに住民基本台帳に載っていない外国人の接種にもつながる」と付け加えた。

ホームレス状態にある人や外国人だけでなく、社会的不利な立場にある人は、公的支援を受けるために『助けて』と言わなければいけないが、『助けて』と言ったらさらに尊厳が奪われる構造が少なからず存在する。この構造を解消するヒントは、当事者との粘り強い対話と支援者間での課題の共有にあるのではないか。

 

ホームレス支援と外国人支援における課題の共通点

10万円の定額給付金をはじめ、住民登録をベースに配布される支援は、ホームレス状態にある人や住民登録のない外国人(短期滞在者、技能実習からの失踪者、難民申請者など)には届きにくい。コロナワクチンは、住民登録のある日本人でさえ届きにくい現状があり、どうしても社会的に不利な立場にある人たちは後回しになってしまう。

公的サービスから取り残されやすい人々の、保健医療へのアクセスに関する課題には共通点があり、課題解決には、それぞれの支援団体が連帯することが大きな力となるはずだ。神田未和(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)

 

【コメント】

新型コロナワクチンは、これまで見えにくかった様々な課題を可視化してくれています。ホームレス状態の人たちと住民基本台帳に載っていない外国人に共通する課題もその一つでしょう。一刻も早くパンデミックが過去の話となるのを望みつつ、こうした課題が見えなくなる前に解決に向けて動きだせたらと思います(MINNAヘルス・藤田雅美)。

 

【編集後記】

MINNAプロジェクトでは、外国人支援団体で働く人ばかりでなく、医師、看護師、保健師、医療通訳、ソーシャルワーカー、外国人相談員、研究者など様々な人がそれぞれの立場から「困窮する外国人」支援のあり方を試行錯誤しています。

今回のエッセイは、ホームレス支援の現場に出かけて行った神田未和さんが、そこで行われたアンケートを入り口に考えたことをまとめてくれました。今後このコーナーでは、様々なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの立場から「在住外国人問題」を理解していく、その過程で感じたことなどを発信していきたいと思います。(MINNAソーシャル・佐藤寛)

 

参考文献/記事:

  • 厚生労働省. ホームレス等への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の周知等について(2021年4月30日付) https://www.mhlw.go.jp/content/000775868.pdf
  • ネットカフェ難民、路上生活者…ワクチン接種から取り残される弱者たちを救え.東京新聞.2021-06-08, 東京新聞Tokyo web, https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/109194?__twitter_impression=true, (参照2021-06-14).
  • 国民皆保険」から漏れてしまうのは自己責任ですか?コロナ感染後の対応、5つの言語で発信する理由. BuzzFeedNews. 2020-04-21, https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/kaihoken-covid-19-gaikokujin, (参照2021-06-14).
  • 熊倉陽介・清野賢司(2019).どうして住まいの支援からはじめる必要があるのか――ホームレス・ハウジングファースト・援助希求の多様性・つながりをめぐる支援論・松本俊彦(編) 「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか.日本評論社.

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