外国人も日本人も暮らしやすい世の中へ。企業も、外国人材も、双方がハッピーになる入国前からのしくみづくりに貢献する

日本の外国人支援事情

日本で働く外国人が安心・安全・健康にはたらくためには、誰もが働きやすい環境づくりが重要です。安全衛生管理、コミュニケーション支援、生活支援、文化的配慮、キャリア形成支援など総合的な取り組みが求められますが、確立されたものはありません。

日本で働く外国人材を受け入れ・定着支援を行う方へのインタビューを通じて、その様々な取り組みを紹介します。2023年12月20日に東広島市で開催した地域連携セミナー(JICA中国、MINNA、東広島市共催)のシンポジストとしてご登壇いただいた清水友美(しみず・ともみ)さんにお話を伺いました。

パーソルグループの本社エントランスにて。右から、PERSOL Global Workforceの川口氏、清水氏。MINNA神田、高田、佐藤
パーソルグループの本社エントランスにて。右から、PERSOL Global Workforceの川口氏、清水氏。MINNA神田、高田、佐藤

清水さんは、介護事業所で外国人の日本語教育と受け入れ・定着支援に従事していましたが、この4月からPERSOL Global Workforce(パーソル グローバルワークフォース)株式会社に転職されました。同社は、外国人材に特化した人材サービスを提供することを目的に、総合人材サービスのパーソルホールディングス株式会社によって設立(2019年10月)。登録支援機関のライセンスをもち、有料職業紹介事業の認可を受け、外国人材の募集・育成から就業・受け入れ、定着までのすべての過程をサポートする「一気通貫サービス」に取り組んでいます。清水さんは、転職について、縁と業務とご自身のキャリアプランがマッチしたと語ります。

「(清水)入国前にできるだけ教育をして、日本に来てから困らないようにするという考え方が、私の考えと一致していたのと、クリーンなサービスづくりにびっくりするぐらい真面目に取り組んでいて、業界を変えていこうとしているところが素晴らしいと思いました。ベトナムからの技能実習生とか、入国前に詐欺に遭った子たちを見ていて、正直どうしようもないと思っていましたがそれを変えようとしている会社があるんだ!って、感銘を受けたんです。」

清水さんのこれまでの道のり

日本語教育との出会い。そして国際交流へ

「(清水)高校は英語科で、1ヶ月語学研修でオーストラリアに行きました。30年ぐらい前のことですが、その頃はまだ、強い国、発展している国として日本に興味を持たれる方が多かった。日本に興味があり、日本語を知りたいという方がオーストラリアにもいっぱいいて、日本語教育って面白そうだなっていうのがきっかけで、広島大学の教育学部日本語教育学科に入学して、日本語の教育メソッドや文化などを勉強いたしました。

いつかは外国で日本語を教えてみたいという気持ちをもちながら、結婚、出産を経て7年ぐらい専業主婦をしていました。子どもが成長するにつれて英語を話せるようにしたいと思い、そのときに知り合ったALT(外国語指導助手)の方に、私と子どもに英語を教えてもらう代わりに私が日本語を教えるというボランティアをはじめました。それをきっかけに、代々東広島に来られるALTの方を教えるようになり、その中で、日本での生活の困りごとを相談されることも多く、自然と生活サポートを行うようになっていきました。

仕事復帰して最初の仕事は、広島大学の教授の秘書でした。そこでも中国人留学生との国際交流がありました。その後、秘書をしていた教授が立ち上げた大学発ベンチャー(製薬関係)で営業事務と秘書を兼務しました。欧米系の会社と取引をすることが多く、英会話のスピードが早くてついていけないので、ブラッシュアップのために、仕事の傍らALTのボランティアを続けていました。自分が学ぶ立場でもあり教える立場にもあったのですけど、学び続けないと言語は習得できないな、と実感しています。

地域の公民館などでやっている日本語教室で教えることにも少しずつ関わるようになり、広島大学は留学生がとても多いので、留学生の方に教えたりしていました。」

インタビュー風景。終始なごやかな雰囲気でいろんなお話を聞かせてくださいました。

多面的な支援が必要な人材定着支援現場での日々

「(清水)本格的に日本語教育や外国人のサポートをしたいと思っていた矢先に、介護事業所でお声がけをいただきました。当初の目的は、海外に日本語学校を作ることでしたが、ハードルが高く、まずは介護の人材不足解消のために、外国人材をどんどん採用していくことになり、2年半で50人ぐらいを雇いました。日本語教育をやりながら採用もするというノウハウがある人が社内に誰もいませんでしたので、基本的に1人で紹介会社とのやり取り、面接、入職の手続き、入管などの書類の作成、寮の準備、入職してからのオリエンテーション、介護教育・日本語教育、24時間のトラブル対応を担当していました。多分どこの企業さんも状況は同じで、誰かが一人で担当する形だと思います。

コロナの頃はインバウンドが不調で、外食や宿泊の求人がなく、日本語ができる方は介護に応募することが多くて、それなりに求人応募があったのですが、コロナが明けると介護が集まりにくくなりました。インドネシアは特定技能制度を用いて直接採用することができますので、現地に赴き、面接をして、日本に連れてくるという形を昨年から開始していました。」

人材定着支援現場での妊娠・出産サポート

MINNA:介護分野では女性が多いので、妊娠出産関連も生活支援として対応されていたと聞きますが、可能な範囲で教えていただけますか?

「(清水)前職勤務中、2年くらいの間に産婦人科に7回同行しました。妊娠は、望む妊娠と望まない妊娠がどうしても出てきてしまう。望む妊娠でも、その間働けないとか、企業側がちょっと嫌がるとか、そういう問題がまずあって、望まぬ妊娠の場合は不幸にならないようにしないといけない。妊娠検査薬が市販されていることは案外みんな知っていますが、陽性が出た後どうしていいかわからない方が多いです。

「まずどの病院に行ったらいいのか、どう行ったらいいのか、ちょっと怖い、今後私どうなるんだろう、仕事や生活は?」など、とにかく不安です。自分も外国で、1人で妊娠したら、どうしようって途方にくれると思います。なので、病院に連れて行く支援はもちろんですが、望まぬ妊娠をしないようにすることも大事かと。新しい命が生まれることは本当におめでたいことだと思っているので決してネガティブな意味ではないですが、自分を守るための手段は持っておく必要がある、というのは最初のオリエンテーションで必ず女性には伝えています。それは企業側として妊娠されたら困るという観点ではなく、あなたが幸せであるために、望まない妊娠を避ける方法について知っておかなきゃいけない、そういう観点です。

その1つの手段として避妊方法について話しています。案外、コンドームは知っていますが、避妊リング(子宮内避妊具:IUD)を病院で入れてくれることや費用は知らないです。避妊リングだけでは性病は予防できませんし、お金もかかるので(広島では大体相場3万円)すすめにくいのですが、選択肢として伝えています。妊娠して嬉しいなら問題ないですが、悲しい思いをするぐらいだったらそういう方法もあると伝えていました。で、もし妊娠したら、必ず相談して、嬉しくても嬉しくなくてもとにかく伝えてくれたら一緒に考えるから、必ず言ってくださいと伝えていました。信頼関係がないとなかなか伝えてくれないので、信頼関係を築き、「困ったときに先生(清水さん)に言えばどうにかしてくれる」って思ってもらえるように、とにかく相談があったら丁寧に答える、そうして信頼関係を築くようにしていました。実際、相談にきてくれて一緒に産婦人科に行きました。」

技能実習生の妊娠・出産に係る不適正な取扱いに関する実態調査(令和4年12月)によると、不適正な発言(妊娠したら仕事を辞めてもらう等の発言)について、監理団体等から不適正な発言を受けたことがある技能実習生の割合は、26.5%となった。そのうち、送出機関から言われた者の割合が73.8%と最も高く、監理団体が14.9%、実習実施者が11.3%でした。妊娠出産も入国前からのつながりで支援を考える必要がある課題です。

よりよいキャリア形成には入国前からの育成が必須

「(清水)日本に入国する前に、日本に住んでからの基礎知識やルール、日本人の考え方とかをある程度知っておかないと、入国してからとても苦労することを目の当たりにしていました。介護福祉士にステップアップできる道があることを知らない、知っていたとしても実際どんな勉強をしたらいいのか知っている人はあまりいないです。あらかじめ計画的に取り組まないと特定技能の5年ってあっという間に過ぎてしまう。介護福祉士の受験要件として未経験の場合は3年以上の実務経験が必要になるので、実際5年のうち3年間は受験資格自体がない。そうすると受験チャンスは5年いても2回、入国の時期によっては1回しかない。その1回で介護福祉士に合格するかっていうと、かなり厳しいので、やはり入国前にできるだけ知識や心構えをつけてきて欲しいという思いがあります。仕事が忙しいと、どうしても疲れて勉強できなくなりますし…実際現場は大変なので、

送り出しに携わる現地の学校は、日本語教育のノウハウはあっても、介護については指導者の教育が進んでおらず、日本式の介護を教えられる人材があまりいない印象がありました。そこで、日本の企業が現地に学校を立ち上げることは法律的に難しいけれど、現地の学校と提携し、介護教育の部分を日本の医療法人が教えることで現地学校側にもメリットがあると考えました。いくつかの学校と協力して、介護の講習を現地で行いました。日本に来てから困らないためには、専門用語と実技が重要なので、その導入をしていました。私はこうした取り組みをやっていたんですけれども、医療法人の中で教育の部分にだけ専念することはいろんな意味で難しかったです。その頃にPERSOL Global Workforceのことを知りました。」

人材流動が当たり前の時代にマッチするインフラとしての人材サービスをつくる

PERSOL Global Workforceの仕事について、清水さんの上司でもある、グローバル人材開発部マネジャーの川口賢さんにご説明いただきました。

PERSOL Global Workforceが目指すクリーンなサービスとは?

「(川口)目指している世界としましては、“Work and Smile” Decent work for everyone(「はたらいて、笑おう。」をすべての人に)というのが弊社のミッションです。せっかく働いていただくのであれば、楽しんで働ける環境にしたいですし、パーソルグループのビジョンが “はたらいて、笑おう。” なのですが、それを英語で表現したのがWork and Smile、そこにDecent work for everyoneを追加して、日本人だけではなく、それぞれの方のキャリアにつながる環境を提供していきたいという思いで、サービスをつくっています。2019年に弊社PERSOL Global Workforceを設立するとき、外国人材マーケットの不透明さによるさまざまな課題から経営層から反対をされました。そのときの条件の1つとして、クリーンなやり方を絶対にしなさいと言われていまして、そこも背景にあります。」

左から、PERSOL Global Workforceの川口氏、清水氏。

外国人材は日本に来るまで、企業、労働条件を把握していない場合があり、希望する職種や適性を考慮したマッチングも行われていないことがあります。受け入れ側の日本企業においても、どんなレベルの外国人材が来るのかわからず、就業した外国人材のスキルと実際希望していた人材像とのギャップで頭を悩ませていることが多いです。こうした問題を解決するために、PERSOL Global Workforceは現地での人材の募集・育成から、日本国内での就業・受け入れ、そして帰国後のサポートまで、外国人材と日本企業の双方にメリットのある一気通貫のサービスを提供しようとしています。

「(川口)清水さんには、入国前の育成部分をメインで対応していただいております。私がいる部には、大きく二つの事業があり(①人材育成、②マッチング)、マッチングのところでも、清水さんは介護の事業者様で働いていたので、我々にない視点があってすごく助かっています。入国前の段階から早くやっていくべきだと思いまして、そこに清水さんの力を借りて進めようとしている状況です。」

PERSOL Global Workforceの強みとサービスづくりの課題

「(川口)一気通貫サービスも、言うは易し行うは難しで、各国で信頼のおけるパートナーを開拓して、その方々と志を共にして、人材育成から進めています。本当に信頼できるパートナーを見つけるのが1番難しいです。清水さんが前職で行っていた定着支援は、弊社にはインドネシア人、ベトナム人、フィリピン人などのスタッフもおりまして、その方々を中心に外国人材の方々が日本で安心して働いていただけるようなサポートをしています。特定技能制度は、2019年に創設された新しい在留資格で、コロナで実際に入国が始まったのが2022年4月頃なので、特定技能で来日した人の帰国後のサポートはこれからになります。日本での仕事を終えて次に進むとき、自国に帰る方であればパーソルグループではアジアパシフィックに13の地域に拠点があるので、そこにお繋ぎして、自国の中でキャリアステップに繋がるサポートを提供できると思っていまして、そこがグループ全体として強みと思っております。日本でキャリアを築いても自国に戻ったら、全然違うことをするケースもございますので、ちゃんと将来につなげていきたいと思います。」

MINNA:特定技能がこれから中心になっていく中で、登録支援機関の善し悪しは、今までよりさらに差が出てくるのではないかと思います。きちんとした登録支援機関が選ばれていくようなメカニズムみたいなものは何かあるのでしょうか?

「(川口)ここは結構頭を悩ませているところですね。登録支援機関は比較的簡単に参入できる状況ですので、このままではやはりよくないとは思っております。政府が出しているガイドラインに沿って正しいことを続けていくことは勿論ですが、弊社の社長が有識者委員会などに参加する機会には、引き続き必要な提言をしていくこともできると思います。」

これから。未来へ

「(清水)東南アジアの国々では、まだ老人ホームに親を預けるなんて親不孝だっていう意識があるので、現状では日本式の介護は根付きにくいです。ただ今後アジアの国々も高齢化社会に突入し、それにともなって日本のような介護を受けていくことが増えていく可能性があります。でも介護を教えられる人材が、私が見た限りではあまり育ってきている状況にはないです。もちろん介護する方の育成も大事ですが、指導者の育成が今後急務と思っています。現地の介護の底上げといいますか、介護技術の底上げもゆくゆくはやっていきたいと思っております。

いろいろな側面がありますが、日本は外国人に頼らざるを得ない状況に変わりはないので、できるだけ外国人も日本人も暮らしやすくしていける世の中にしていくべきだろうと思います。」

PERSOL Global Workforceの取り組みは、世界の潮流を捉えた、既存の人材紹介や登録支援機関のサービスや業務フローを大きく超えたチャレンジングなものと感じました。清水さんがこれまでの経験で培われた知識や技術をもちいて、今後、企業も、外国人材も、双方がハッピーになる入国前からのしくみをつくっていかれるのを心から応援しています。(神田未和)

引用文献・参考文献

【引用文献】

1) 技能実習生の妊娠・出産に係る不適正な取扱いに関する実態調査(令和4年12月)

技能実習生の妊娠・出産について | 出入国在留管理庁

【参考文献】

黒田真行; 佐藤雄佑. 採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ (pp.18-19). 株式会社クロスメディア・パブリッシング. Kindle 版.

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