日時:2023年3月27日(火)18:00~19:45
場所:あじびホール(福岡アジア美術館)、オンライン
MINNAが2022年より行っている、各地域の実情と取組みを学びながら、新たな協力関係を模索し、各地域の橋渡しを目指す「地域連携セミナー」の第三弾を行いました。
今回はJICA九州と共催し、「外国人労働者の保健医療サ-ビスへのアクセスについて~コロナ下で明らかになった課題と今後活用できる外部資源の棚卸し~」と題し、外国人労働者の産業衛生について意見を交換することにしました。
今回もハイブリット形式とし、
参加者会場12名、オンライン62名、計115名の方に参加申込みいただきました。
「外国人労働者をめぐる各地の取り組み 3年間の47都道府県プロファイルから見えてきたこと」
まず、佐藤寛さん(MINNA/アジア経済研究所)が、外国人労働者をめぐる全体の見取り図として話題提供をしました。
日本国内の在留外国人の数は300万人に迫り、日本の人口の2%強は外国人(50人に1人)に達しました。コロナ禍もあいまって、各地で非常に多くの外国人が医療アクセス・生活支援で困っています。日本の外国人労働者を取り巻く環境として、ブラックバイトの報道をはじめ、技能実習生の過酷な長時間労働環境、失踪者の困窮や彼らの犯罪に関する報道、コロナ禍ではクラスターの発生、ワクチン接種の権利がない人への対策など、課題が多くあります。私たちは外国人労働力受け入れに関して、日本各地では様々な試みが行われていると考え、「外国人労働者への対応に関する47都道府県のプロファイルⅡ(2022年版)」を作成してきました。これを通してこの3年間、日本各地で様々な取り組みが行われ、以下のような変化あることが分かってきたのです。
①情報共有のための連絡協議会の発足②外国人による互助組織、支援組織との連携③労基署主導の共同パトロール④ワクチン支援⑤外国人向けの講習⑥外国人向け食材店のオープン⑦就業支援の民間ビジネス発生⑧技能実習生誘致のための県の補助金⑨介護人材争奪戦。⑩市民への啓発活動
日本の経済システムは、既に外国人労働力への依存なしには成り立たないといわれますが、そうだとすれば、地域経済の持続可能性を高めるためには、外国人労働者の人権に配慮した労働環境・生活環境を構築する以外ないと考えています。労働環境の整備は企業の責任ですが、生活環境の整備は行政、市民団体、周囲の日本人の協力がなければ達成できません。多くのアクターを巻き込むことなしには実現できない、だからこそ、お互いに、何かの時に助けを求められるようにできることを開示し合うことが大切だと考えています。
「企業における健康診断の現状と課題、健診機関の立場から可能なサポートについて」
産業医科大学 国際センター 副センター長 石丸 知宏さん
外国人労働者が増える中で、技能実習生の監理団体932機関に対し、技能実習生の健康と安全への支援の実施経験と容易度の調査を行い、その結果から見えることについてお話をいただきました。
入国前後の健診で解らず、その後外国人本人から持病の報告を受けたり、入国前の健康診断で異常があったにもかかわらず、申告しないで入国したり、入国前に虚偽の申請があり、入国後健康診断で、発見されることが多くみられました。このように、外国人労働者の入国後に健康問題が発覚するケースが後を絶ちません。企業における健康診断は、雇用時健診と定期健診、労働者数50人以上の事業にはストレスチェックも受けることができます。実際に産業医、保健師がサポート介入した事例を紹介していただきました。産業医や保健師による健診判定、保健指導(受診勧奨、生活指導)、医療機関への橋渡しや、休職中の労働者の復職プログラム作成、治療と仕事の両立支援など、各種サポートを提供する健診機関があることを企業側、外国人労働者側の双方に周知することが大切です。また、外国人労働者に健康トラブルが起きた際に健診機関(労働衛生機関)に相談できる体制を整えておくことが重要であると考えています。
「外国人労働者の健康問題における小規模事業場の健康支援活動」
中尾労働衛生コンサルタント事務所ワーク&ヘルス 代表 中尾 由美さん(保健師)
労働安全衛生法に基づき労働者数50人以上の事業場は産業医の選任が義務付けられており、健康診断実施後の保健指導が行われていますが、労働者数50人未満の小規模事業場では同じサービスを受ける機会がほとんどないのが現状です。外国人労働者の健康問題における小規模事業場の健康支援活動についてお話をいただきました。
産業保健看護の対象は、すべての労働者および事業者であり、個人だけでなく集団・組織であるということが一般の看護とは大きく異なるところです。経営的視点を念頭に置き、かつ公平・公正な立場から事業者と労働者の自主的な取り組みを支援するものであると定義されています。労働者が健康で安全に働き続けることができる職場環境づくりをサポートする役割があります。
小規模事業所では、産業保健総合支援センターや地域産業保健センターが個別訪問や相談、情報提供などを行っています。外国人向けにも、安全衛生教育を行っていますが、その中で外国人労働者の健康支援は少ない状況です。医師、保健師など多職種による産業保健サービスを提供し、機能が異なる組織の連携が必要です。また、サービスの目的をもっと広く周知し、その効果を上げるためには、利用者である代表者等や労働者への情報提供や気づきを与える機会を継続的に設けることが必要であると考えています。
セミナー後半は佐藤寛さんをモデレーターに登壇者3名による指定発言が行われました。
外国人への医療アクセスについて、医療現場の目線での感想やこれから先の課題、方法についてディスカッションしました。保健医療サービスへのアクセスを、すべての外国人従業員が受けられるものにする必要があること、外国人を受け入れる際、オリエンテーションでMINNAも作成に協力した「日本ではたらくベトナム人のための健康ハンドブックを利用してはどうかなどの具体的な策も出てきました。また、フロアからも外国人も仕事が終われば地域の生活者であることを意識しなければならないとの意見もでました。今回の対面参加者は社会保険労務士、弁護士、町内会長、商工会、大学関係など様々な分野の方々で「産業保健師があることを初めて知った」「外国人へのサポートがこんなにあることがしらなかった、良い機会だった」などの貴重な意見を聞くことができ「良好な事例を蓄積していくことが大切」と今後の取り組みへの重要性を話し合うことができました。
最後に、現在、外国人従業員が増えていく過渡期であり、中小企業も変わっていっているが、従業員が良い状態で働くことで生産性が増え、企業の利益につながること、外国人、日本人ではなく、同じ従業員として扱う意識を企業にもってもらうことが大切であると締めくくりました。
セミナー終了後も参加者は会場に残って、意見の交換や今後お互いが繋がってできることを模索する姿が見られました。
最後に、参会者へのアンケートでは、32名の回答があり、非常に満足 8件 (25%)、満足 21件 (65.6%)、ふつう2件 (6.3%)、不満1件 (3.1%)という結果でした。
印象に残った話として、「想像以上に在日外国人割合が増加している」、「同じ在日外国人でも、留学生なのか、駐在員(家族)なのかといった経済・社会的なバックグラウンドを考慮することが重要だということも、自身が医療者として接する中で重要と感じました。」、「いろんな立場を超えた連携の必要性」など、多くの貴重なご意見を賜ることができました。今後改善すべき事等について検討し、今後の活動に役立てていきたいと思います。(報告者:MINNA塚本)
<こぼれ話>
セミナー運営後に夕飯を食べていたお店で、「わさび」と書いているなんともユニークなわさび卸金に出会いました。「わさび」と刻印された部分でわさび削ることができ、削るだけで盛り上がりました。 なんと、それは、わたしの地元、静岡県三島市にある田中産業株式会社でつくられていました!https://ordermadeh.net
田中産業株式会社では、全従業員の約45%がベトナム人技能実習生だそうです。
あの日のたのしい時間は、日本ではたらくベトナム人のみなさんにつながっていました。
日常生活が、日本にはたらく外国人を含む多くの人に支えられていること、海外、国内と地続きであることを感じたエピソードでした。(MINNA神田)
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