2023年12月20日に、JICA中国と東広島市とともに「MINNA 地域連携セミナー」第4弾を開催しました。本セミナーは、各地域の実情や取組みを学びながら、新たな協力関係の構築、地域や領域間の橋渡しを行うことを目的とし、2022年より開催しております。
今回は、「やさしい日本語で外国人とコミュニケーション」と題し、様々な国から様々な理由で日本に移り住み生活されている外国人の方々とのコミュニケーションの中で起きている課題の実際とその改善策を多文化共生コーディネーター、外国人サポート経験者、留学生等、日本人×外国人のコミュニケーションの現場をよく知る多彩な皆様のお話とともに考えました。
今回は対面のみでの開催となりましたが、事前参加登録70名のところ、当日は広島大学の留学生を含む120名の方々が会場に足をお運び下さり、関心の高さが伺えました。
講演1 「各地における『やさしい日本語』と多言語対応の取り組みと今後の展望」
NPO法人国際活動市民中心(CINGA)コーディネーター 新居みどりさん
これまで外国人総合相談支援センター及び外国人技能実習機構母国語相談センター統括コーディネーターや法務省「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」有識者会議委員等も務めてこられた新居みどりさんが、実際に会場でも「やさしい日本語」を使って現状と今後についてお話して下さいました。
「やさしい日本語」は阪神淡路大震災をきっかけに1995年頃から研究が始まり、東日本大震災時にその重要性が再認識されました。例えば、津波時に市や町が放送した「高台に避難してください」という言葉は非日常の言葉であったため、水産加工業で働いている多くの外国人の方々には伝わりませんでした。「たかいところににげて」と伝えられていればより多くの命が助かったかもしれないと言われています。
また、東京都外国人新型コロナ生活相談センターでは、毎日14言語対応可能な体制を整備しました。しかし、1年間で寄せられた相談件数5607件のうち、最も使用件数が多かった言語は「やさしい日本語」でした。2020年4月時点で東京には176の国と地域の方々が住んでおり14言語では限界があったこと、そして、そのような時、日本に住んでいる外国人の方々は「日本語が少しはできる」ため、次に選択する言語は「やさしい日本語」であったことがわかりました。多くの外国人の方々が困っている時、緊急時に必要としている言語は「英語」ではなく「やさしい日本語」だったのです。
また、もう1つの大きな課題として、外国人の方々は長く住まれていて流暢に「話す」ことはできても体系的に日本語を学べていないので日本語特有の形式で作成される行政文書や手紙等を「読む」「書く」ことは大変難しいという点が挙げられます。昨今では、ガイドラインが作成され、自治体、学校、医療機関等で、外国人の地域・日常生活への「やさしい日本語」の活用が普及しつつあります。
新居さんの話されていた言葉の1つ1つは終了後も長く私たちの記憶に残り、「やさしい日本語」は外国人・日本人の垣根なく必要なものではないかと感じました。日本人であれば実は誰でも意識すれば使える「やさしい日本語」、その活用に大きな可能性を感じるともに日本人側の意識へのさらなる働きかけが重要であると感じました。
講演2「各地の自治体の外国人住民対応~外国人労働者47都道府県プロファイルから~」
開発社会学舎主宰/ MINNA運営委員 佐藤寛さん
開発をめぐる「実務と研究を橋渡しする」をライフワークとする援助研究者・開発社会学者で、みんなの外国人ネットワーク(MINNA)プロジェクトの運営委員でもある佐藤寛さんから、MINNAの活動として作成している「外国人労働者47都道府県プロファイル」についてお話頂きました。
「外国人労働者47都道府県プロファイル」作成への取り組みは前回福岡での地域連携セミナーでもご紹介頂いたのですが、今回は2023年にアップデートされたプロファイルの内容をご説明頂きました。
外国人労働者が増加する中、各地域ではそれぞれ工夫しながら取り組みを行っていますが、その取り組みや課題を国内で横断的に把握したり、共有したり、効率的・効果的に連携するための仕組みがまだありません。本プロファイルは、そのような現状を考慮し、日本各地の行政機関・事業者・様々な地域組織が、どのような形で外国人を受け入れ、共生していこうとしているのかの実態を「技能実習」「特定技能」をキーワードとして全国横断的に調査したものです。
佐藤さんからは、本プロファイル作成によりわかってきた都道府県別の取り組みを紹介頂きました。技能実習生への「自転車の乗り方と交通ルールの講習会開催」、「地元の高校生とのスポーツ交流会の開催」、「介護施設で高齢者と会話するための方言マニュアル作成」等の地域や労働環境に密着した具体的取り組み、「不当な労働環境に対して技能実習生が声を上げ始めている事例」が増えていること、「農業の繁閑期が異なる地域が連携して通年で安定した人材活用」を試みていること、「複数県の知事らが技能実習生の送り出し国へ渡航し交渉や取り組み」を行っていること等々、これまで知られていなかったリアルかつ沢山の工夫や取り組み、課題が本プロファイルから見えてきました。
外国人の方々の背景を理解した上で何ができるのか、国、自治体、事業者、地域組織等が連携しながら考え続けていく必要があります。
パネルディスカッション「困ったときにはどうしよう?外国人住民と日本人の双方からできることはなにか」
HLA日本語学校校長/こどものひろばヤッチャル代表 間瀬尹久さん
西条住民自治協議会国際交流部会長 正原耕治さん
東広島青年会議所会員/INOSHISHIYAH代表取締役社長 清水祥平さん
好縁会グループ管理支援部 清水友美さん
広島大学教育学部研究/ベトナム出身 ホアンティリンさん
最後に、日本人×外国人のコミュニケーションの現場をよく知る多彩な皆様のお話とともにパネルディスカッションが行われました。
パネルディスカッションでは、外国籍児童への日本語講師を務めてきた間瀬さんは、日本人がセッティングするという考え方ではなく「一緒にやる」という考え方とその中で「やさしい日本語」を使いながら地域コミュニケーションを深めていくことの将来性を語られました。様々な外国人への住環境支援や交流を行ってきた正原さんは、「丁寧な地元密着の推進=顔見知りを増やしていくこと」の重要性をご指摘になり、日本人が外国人体験をする場を提供してきた清水(祥)さんは、「日本人が海外で“外国人”となってみる経験」をすることがお互いの気持ちを理解し合う一助になるのではと話されました。技能実習生の研修センター勤務を経て医療法人にて外国人介護職の採用や生活サポート等を行っている清水(友)さんからは、生活トラブル時に外国人本人には何も言われず直接警察に通報されてしまったと悲しんで泣いていた外国人の方の事例のご紹介があり、日本人の「怖い」と思う気持ちへの共感ともに、それでもお互いに「ちょっと話しかけてみよう」という気持ちを持つことの大切さをご指摘頂きました。広島大学研究生でベトナム出身のホアンさんからは、外国人と日本人の「普通」が違うことを理解しあうことの難しさについてのお話を伺うことができました。
セミナーは、非常に考えさせられる問題提起とともにその中でも実際にできることから取り組みを始めている事例紹介と、大変充実した内容でした。回収したアンケートでは、98%がセミナーの内容に「非常に満足」「満足」と、84%がセミナー前後で意識の変化があったと回答して下さりました。終了後も参加者の方々が会場に残り、意見交換・情報交換を積極的に行う姿が見られました。
MINNAでは、本セミナーでの学び、多くの方々との出会い・繋がりを生かして引き続き活動に取り組んで参ります。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
<セミナー後>
本セミナー後に、ほーむけあクリニック様と広島大学(総合診療科/国際医療支援部)様を訪問させて頂きました。子どもから高齢者まで地域のあらゆる人々のプライマリケアへの思いから前例のない挑戦を続けるほーむけあクリニック様の姿や総合診療部門と国際医療支援部門とが連携し、現状の見える化、データ化、連携を図ろうとする広島大学様の姿から大きな刺激と学びを頂きました。ほーむけあクリニックの皆様、広島大学総合診療科/国際医療支援部の皆様には心より御礼申し上げます。
(報告者:MINNA 岡田 結生子)
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