2025年2月9日(日)、浜松国際交流協会(HICE、ハイス)が主催する第15回はままつグローバルフェアと共催で、MINNAセミナー「みんなで考える外国人の医療課題」を開催しました。
日本で唯一インターカルチュラル・シティ(ICC)※1に加盟し、多文化共生の先進地域とされる浜松市。本セミナーでは、同市が直面する在住外国人の医療課題をテーマに、医療と社会のつながり、そして共生の土壌づくりについて議論が展開されました。セミナーには70名が集まりました。

※1:インターカルチュラル・シティとは:
移住者や少数者によってもたらされる文化的多様性を好機ととらえ、都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする新しい都市政策。2008年から欧州評議会主導で「インターカルチュラル・シティ・プログラム(ICC)」が推進されており、170を超える都市が参加している。浜松市は2017年10月にアジア初の加盟都市となった。
周囲の日本人への働きかけは、よい木が育つ「土壌づくり」

開会挨拶で、HICEの松岡事務局次長は「浜松は多文化共生の先進地域とされていますが、在住外国人の医療アクセスには多くの課題が残っています。例えば、静岡県が提供する無料の電話通訳サービスは十分に活用されておらず、医療通訳者の質や待遇の問題も指摘されています。さらに知人や家族が通訳を担うことが多く、ヤングケアラー問題の一因にもなっています。」と説明しました。また、松岡氏は「医療通訳を保険適用するなどの議論もありますが、社会の理解が得られなければ実現は難しいです。今日は、外国人をめぐる医療の課題と、それを含めてどのような社会をつくるのか、『周囲の日本人』への働きかけについて考える場になることを期待しています。」と語りました。

松岡氏の話を受け、MINNAソーシャルプロジェクトで「周囲の日本人担当」として活動する佐藤寛氏(MINNA/開発社会学舎主宰)が、「外国人労働者対策の全国的動向と、周囲の日本人へのアプローチの重要性」について報告しました。MINNAでは、外国人労働者に関する報道を収集し、国の施策、県や自治体の取り組み、企業の対応、市民社会の活動に分類して、半年ごとに更新しています。ここ数年の間に全国各地の取り組みが多様化し、外国人住民の増加が人口動態にも影響を与えている地域があることを説明しました(例:2023年長崎県五島市で3年ぶりに人口増加)。
最後に佐藤氏は、「日本の産業にとって外国人労働者は欠かせない存在ですが、多くの日本人は外国人と接する機会が限られています。そのため、偏ったイメージを持たれることもあり、多文化共生の土台が築かれにくいのが現状です。在住外国人の医療課題を解決するには、周囲の日本人の理解を深め、ネガティブな印象を前向きなものへと変えていくことが重要です。」と強調しました。
経済的理由で医療を受けられない方に診療を提供する「無料低額診療事業」

浜松佐藤町診療所所長の水谷民奈氏は、「無料低額診療と外国人の医療アクセスについて」報告。高額な保険料で滞納者が増え、経済的理由で受診を躊躇し命を落とすケースについて説明しました(全日本民主医療機関連合. 2023経済的事由による手遅れ死亡事例調査概要報告. 2024)。水谷氏は、「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health,SDH)」の観点から、経済的理由で必要な医療を受けられない方に、無料または低額で診療を提供する「無料低額診療事業」を紹介しました。2021年以降、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、佐藤町診療所を訪れる外国人の無料低額診療事業の利用が増えています。無保険のために治療を受けられず重症化した人が、HICEを通じて浜松佐藤町診療所へつながった事例を紹介し、誰もが安心して医療を受けられる制度の重要性を強調しました。
▶︎浜松佐藤町診療所
浜松市の在住外国人の医療支援をして考えた医療通訳の限界と包括的サービスの必要性

ammikkal(アンミッカル)/ヘルプユープロジェクト浜松代表の菅沼映里氏より、「浜松市在住のインド人留学生、労働者への生活・就労支援、医療通訳の実際」と題し、報告がありました。菅沼氏は、冷凍カレー販売やインド料理教室「ammikkal」を運営する傍ら、在住外国人の医療支援、インド人留学生の相談支援、精神科の作業療法士として講師業や訪問リハビリテーションなど幅広い活動をしています。
在住外国人が医療機関を利用する際、受診前、受診・通院・入院・支払い時にさまざまな困難を抱えています。菅沼氏は、こうした課題に対応するため、受診同行や電話通訳、日本の医療制度・手続きの説明、さらには外国人特有の背景を医療者に伝える役割も担っています。多くの外国人が「どこの医療機関に行けばよいかわからない」と考えており、その解決策として、多国籍クリニック検索アプリ浜松版「mikke!!(みっけ)」を開発。この開発を通じて、菅沼氏は在住外国人の医療や福祉課題の深刻さを認識したことから、市民が継続的に情報共有する場「Foreigner Wellness in Hamamatsu」を立ち上げました。キックオフミーティングは2025年3月13日開催予定です(下図参照)。
菅沼氏は精神科の重症化患者の訪問リハビリを行なってきた経験から、「医療、福祉、行政がすべて関わるような重症なケースでは、医療通訳だけでは限界があり、様々な分野をつないでいく包括的なサービスが必要と感じています」と語りました。

パネルディスカッション

【パネリスト】
⚫︎山口貴司(元山口ハート国際クリニック): 浜松市で長年外国人医療に取り組む先駆者。ボランティア団体「浜松外国人医療援助会(MAF)」を1997年に設立し外国人向けの健康診断事業を運営。2010年に山口ハート国際クリニックを開設し、医療通訳の養成に注力。2022年にクリニックを終了し、現在は総合病院で外国人患者も含めて臨床に携わる。
⚫︎藤田雅美(MINNA /国立国際医療研究センター):20年間にわたる東南アジア諸国駐在を経て、2018年より東京を拠点に活動。グローバルヘルスの文脈で外国人・移民の健康課題に取り組みながら、移民の社会統合政策、SDGs、社会的連帯経済等とのシナジーについて模索している。
⚫︎上野貴彦(都留文科大学):社会学者。スペインや世界のインターカルチュラル・シティを通じて、都市と移民の関係を研究している。
⚫︎水谷民奈(上記参照)
⚫︎菅沼映里(上記参照)
⚫︎モデレーター 佐藤寛(上記参照)
欧州では専門職として身分が保障されている、媒介役とは?
—佐藤:藤田さんからこの問題の概観を整理いただけますか?
(※—で始まる太文字はモデレーターの佐藤氏の発言。以後パネリスト含め名称省略。)
藤田:「外国人の医療アクセスに関する課題として、支援者間の連携不足、医療機関の受け入れ体制、外国人の在留資格の多様化があると思います。浜松市ではこれまで定住外国人が多かったものの、近年は技能実習生や留学生など、身分が不安定になりやすい状況の在留資格が増え、彼らが社会的に脆弱になりやすい課題があります。そうした人たちの医療アクセスの課題には、水谷さんや菅沼さんのような支援者の役割がますます重要になってくるのではないでしょうか。」と説明しました。
—佐藤:外国人の医療アクセスの課題を生み出しているのは、私たちが暮らす社会や周囲の人々の存在なわけですが、私たちにできることは何でしょうか?
上野:「医師や医療通訳などの専門職の議論から、ひとっ飛びに周囲の日本人の理解促進へと話が進みがちですが、その間にある重要な部分が見落とされていると感じます。それは菅沼さんの活動や、水谷さんの事例におけるHICEの役割のような仲介支援です。欧州では、このような支援を担う人を『媒介者、仲介者、(インターカルチュラル・メディエーター)』と位置付け、首長のコミットメントのもと、公的に育成を進めています。彼らは、言語的仲介、文化的仲介、制度的仲介とスキルを切り分けて専門的な役割を担い、専門職と当事者をつなぐ役割を果たしています。また、水谷さんのような専門家の話をストーリーテラーとして伝え、周囲の意識を変えることにも貢献しています。このような活動には誤解や負担が伴うリスクもあるため、外国人基本法の制定など、安心して取り組める仕組みが求められます。」

媒介者、仲介者になりうる人はどんな人?
—佐藤:菅沼さんのような媒介者が専門職としていたらいいですが、簡単な話ではないですよね。水谷さんや山口さんの仕事をサポートし媒介者となりうる存在はいるでしょうか?
水谷:「『媒介者』は、『社会的処方※2』とつながると思いました。例えば、患者さんが『寂しい』と訴えたとき、薬を処方するのではなく、サークル活動などのソーシャルサポートを提供する仕組みがイギリスにはあります。私たちの診療所では『友の会(患者組織)』があり、こちらを通じて患者さんにボランティア活動や太極拳サークルに参加する機会を提供しています。患者さんが生活保護の手続きが必要になった際には、友の会の方が市役所へ同行し、支援を行うこともあります。地域にはすでに媒介者となり得る人や団体がたくさんあり、まだつながっていないだけなのかもしれません。また、日本プライマリ・ケア連合学会の医師、看護師、理学療法士、そのほかの医療従事者などの間で、健康の社会的決定要因(SDH)への関心が高まり、ソーシャルワークに対する理解が深まっていると感じています。」
山口:「専門の医療通訳は、患者と病院の間に立つので公正な立場でなきゃいけない。一方で、専門ではないが言葉が話せて人権意識があり、お世話もできる「アドホック通訳者」がいます。こういう人たちが介在すると患者さんはすごく安心できる。機会的な通訳やサポートにとどまらない、人情味のある介在者がこれから必要だと思います。」
※2:社会的処方とは:
健康の社会的決定要因(SDH)に注目し、医療だけでなく社会的なアプローチで健康問題に対応する概念。イギリスを中心に発展し、日本でも2020年以降、政策に取り入れられている。
—佐藤:どうすれば菅沼さんのような人情味のある媒介者が増えるでしょうか?
菅沼:「私が1人で活動しているように見えるかもしれませんが、昔の職場の医師やカレー屋さんのお客さんなど多くのサポーターに支えられています。多くの人が問題意識を持ち、助けになりたいと考えているけど、その方法や範囲がわからない人が多い気がしています。」
インターカルチュラル・シティのインターは “接触” ――分野を超えた対話が生む最適解
上野:「インターカルチュラル・シティの概念は、多様性と平等を両立させる街を目指すものです。多様な住民の共生は、平等=すべての人がサービスを受ける権利と、多様性=異なる背景を尊重し、尊厳ある生活を送ることの2軸で考えられてきました。しかし、この2つのバランスを取るのが難しい場面があります。例えば、医療通訳の保険適用を巡る議論など、地域の実情が異なる中で、最適解をみんなで民主的に探すしかない。そこで重要なのが、顔の見える関係をつくり、地域住民みんなが納得できる方法を考えていく過程です。ここが、インターカルチュラル・シティのインター(間)の意味です。対話を目的ではなく手段として大切にする、柔らかいアプローチが必要だと思います。」
藤田:「MINNAは直接サービスを提供する団体ではなく、様々な分野とのつながりで課題解決を模索しています。プライマリ・ケア医や産業医という職能団体、地域保健と産業保健の間をつなぐことを進めてきました。上野さんとは、医療分野のつながりを超えた話を進めています。媒介者について考えるとき、多文化共生の枠組みの中だけで考えないことも大事ではないでしょうか。防災、教育、福祉などに携わる関わる人々が持つ多様な側面や個人の余白に注目することで、人とのつながりが生まれ、変化を生み出していけるのではないかと思います。そうした点から、菅沼さんのお話に触発されました。」
その後も、登壇者同士で、自らの枠を超えて視野を広げ、活動の可能性をさらに広げたいと意見が交わされました。

参加者の声
会場から「浜松佐藤町診療所が仮放免の方の最後の砦になっていると感じた」、「ダイバーシティの教育として子どもにも聞いてほしい」などの感想がありました。「財源確保をどうするか?」の質問に、藤田氏は「経済の回し方を変えること、地域社会での支え合いやケアエコノミーにヒントがあるのでは」と述べ、上野氏は「地元のグローバル企業が財団を設立するなど、浜松ならではの民間からの持続的な支援も考えられるのでは」とアイデアが交わされました。
最後に
HICEの松岡氏は、2時間半を振り返り「HICEの仲介者としての役割の重要性を改めて実感しました。仲介者は異なる立場の人々をつなぐだけでなく、分野を超えた協力を生み出す力がある。現在、高齢者介護の分野で新たなつながりが生まれ、具体的な取り組みが始まりつつあります。この動きを止めず、発展させていきたいと思いました。」と締めくくりました。
松岡氏の話を聞き、MINNAのコンセプトである「つながりで解決する」ことの可能性を感じました。浜松で学んだことを活かし、活動を続けたいと思います。
(神田未和)
<読んでくださった皆様へ>
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