医療現場での外国人とのコミュニケーションを考える

医療現場での外国人とのコミュニケーションを考える 外国人の日常生活を知ろう
初期研修を終えてまもなく、検査入院をしていたロシア人の女性患者さんを担当することになった新米医師がいました。患者さんは母語であるロシア語以外はあまり話せません。どうやって毎日のコミュニケーションをとればよいのか、病棟看護師さんと相談してロシア語の指差し会話集を準備し、毎日の回診ではその会話集とジェスチャー、簡単な日本語と英語を織り交ぜて、何とかコミュニケーションをとっていました。幸い、回診時には込み入った会話が必要になることもなく、患者さんも穏やかに入院生活を送っているように見えました。夫もロシア人でしたが、患者さんよりも日本語が話せると聞いていたので、検査結果の説明時には、夫に来てもらい、患者さんへ通訳をしてもらいました無事に退院を迎え、新米医師は「よかった、よかった」とホッと一安心しました。
*回診:医師が病室を回って患者を診察すること

外国人診療に慣れていらっしゃる方から見ると、ツッコミどころがたくさんあるのではないでしょうか。私からも、ちょっとアドバイスしてみたいと思います。

①「やさしい日本語を使えてる?」

日本語を母語としない方々にも理解してもらいやすい日本語を話すコツがあります。医療×「やさしい日本語」研究会のホームページ1がとても参考になります。

いくつかポイントを紹介しましょう。一文を短くし、わかりやすい言葉に言い換えてお話しすると、伝わりやすくなります。例えば、「検査後、痛みが出ることが多いですが、鎮痛剤を使えますし、1-2日で治まるのがほとんどですので、あまり心配しないでください。でも、痛みが悪化する場合は我慢せずに教えてください」と伝えたい時には、「検査の後、ここ(手で指し示して)が痛くなります。1-2日続きます。痛い時、痛み止めの薬を飲みます。痛みがひどい時は、すぐに看護師に言ってください」などと言い換えることができます。また、相手に敬意を示そうと思って使っている尊敬語や謙譲語も理解の妨げになります。

やさしい日本語のポイントを知っても、いざ実践となると「やさしい日本語を使いこなすのは易しくない」と感じるかもしれません。しかし、試行錯誤を続けることで、少しずつ使い方のコツを掴み、患者さんに理解してもらえる場面が増えてきますので、どんどん使ってみましょう。

②「込み入った会話は本当に必要ないの?」「患者さんは心配していること、困っていることを本当に言えてるの?」

もし自分があまり話せない言語で「今日の調子はどうですか?」と質問されたら、どう答えるかを想像してみましょう。私は語学にとても苦手意識があるので、想像するのは簡単です。よっぽど切羽詰まった状態でなければ、自分が知っている単語の範囲内で、なるべくその後の会話が続かなくて済むように、「大丈夫です」「元気です」と言って、話を終わらせてしまう気がします。でも、相手に失礼にならないように、とりあえずニコニコはしているかなと思います。もしかしたら、ロシア人の患者さんもそういう気持ちだったのではないでしょうか。

質問をしておけば、患者さんの思いや訴えを聞いた気になってしまいがちですが、患者さんが言いたいことを言える環境が整っていなければ、本当の意味で聞いたことにはなりません。

③「家族による“通訳”でいいの?」「医療通訳は利用しないの?」

「日本語が通じる夫がいて助かった。これで通訳問題は一件落着!」でよいのでしょうか。一度立ち止まって考えてみましょう。

日本語が母語ではなく、通訳の訓練を受けたこともないご家族に、こちらの説明を過不足なく正確に通訳してほしいと期待するのは無理な話ではありませんか。医療者は当然知っている臓器名や検査名も、ご家族は間違えて覚えているかもしれません。自戒を込めて書きますが、日本人であっても「医者の説明はわかりにくい」とよく耳にします。それをご家族の方に通訳してもらおうと簡単に考えるのは、都合がよすぎるのではないでしょうか。

また、話の内容が、患者さんやご家族にとって悪い知らせ(例えば「悪性の可能性があります」など)であった場合、ご本人には伝えたくないというご家族の判断で、その部分をカットして通訳されることもあり得ます。ご家族の関係性によっては、中心であるはずの患者さんを蔑ろにして、力を持っているご家族の意向通りに話を進められてしまうこともあり得ます。

患者さんが意思決定するのに十分な情報を得て、納得した上で必要な医療を受けられるように、こんな時は「医療通訳」を活用しましょう!医療通訳は医療者にとっても、患者さんの話を正しく理解し、病気の正確な判断をして最適な医療を提供するのに、非常に重要なものです。

そうは言っても、ご家族に通訳の代わりを務めてもらって乗り切らなければならない場面もあるかと思います。そんな時は、事前に多言語資料を用意したり、やさしい日本語で説明できるように準備したり、難しい単語が出てきた時のために翻訳アプリを準備しておいたり、患者さんの理解を確認する時間をつくったりなど、いろいろと工夫して最善を尽くしましょう。


 

さて、ここまで私なりのアドバイスを書いてきましたが、この新米医師はかつての私のことです。実は当時、医療通訳を利用するという考えは一度も浮かびませんでした。学生実習や初期研修期間も含め、医療通訳を利用している場面に出会ったことがなく、医療通訳という存在を知らなかったのです。また、今であれば、病院のソーシャルワーカーに、これまで病院で外国人患者さんを受け入れた時にどうやって対応していたのか、他の病院ではどうしているのかと相談するのですが、この時、ソーシャルワーカーの存在・専門性を知らずに、助けを求めることをしませんでした。

私は「シェア=国際保健協力市民の会」の在日外国人支援事業部でインターンをしたことで、初めてこの時に失敗を犯していたことに気づきました。家族による“通訳”に潜む危険性を知った時にはとても怖くなりました。

自分の無知と対応の未熟さのせいで、あの時のロシア人患者さんには十分な医療を提供できなかったという反省と後悔があります。この患者さんの診療をやり直すことはできませんが、これから出会う日本語を母語にしない方々とのコミュニケーションに反省を活かしていきたいと思い、MINNAの活動に参加しています。

もし、今まさに外国人患者さんとのコミュニケーションで困っている方がいらっしゃいましたら、各地の医療通訳派遣団体2や自治体のワンストップ窓口(平日昼間、夜間休日)などに相談してみてください。ひとりで抱え込まずに、みんなの得意や専門性を活かして、外国人診療に取り組みましょう。

今、気がかりなのは、外国人の方々の新型コロナワクチンの接種です。日本語が通じない方々も、ワクチンに関する十分な情報を得て、納得した上でワクチン接種ができるように自治体やNPOなどが準備・対応を進めていますが、その用意があることを外国人の方々だけでなく、ワクチン接種に従事する人々にも周知されているのかを心配しています。せっかくよいツールが準備されていても、現場の人がそれを利用しなければ意味がありません。外国人のワクチン接種対応に苦心している現場の方々に役立つ情報も、MINNAの活動で伝えていけたらと思っています。(シェア=国際保健協力市民の会 吉田美穂)

 

【コメント】

わたしたちは、昨年から「新型コロナに関する外国人相談と保健行政の連携を図るための事例検討会」の開催に協力してきました。そこで紹介された事例からも、“よっぽど切羽詰まった状態でなければ、自分が知っている単語の範囲内で、なるべくその後の会話が続かなくて済むように、「大丈夫です」「元気です」と言って、話を終わらせてしまう”外国人の方々の姿が浮かび上がりました。医療や保健の現場はもとより、社会生活の様々な場面でのこうした経験を、広く共有していけたらと思います。(MINNAヘルス・藤田雅美)

【編集後記】

今回のエッセイでは、現在国際医療協力を志して修行中の吉田さんが、かつての自分の「失敗」を振り返ってくれました。外国人を診療する際に、専門知識や技能はもちろん必要ですが、それは時間とともに身についていくものです。今回のお話は「想像力」の大切さを教えてくれます。日本に暮らす外国人は、日本人には想像もつかないところでつまづいてしまう可能性があること、その思いがけない困難を想像する柔軟な心を持つことが、在日外国人に接する最初の一歩なのかもしれませんね。(MINNAソーシャル・佐藤寛)

参考
1. 医療×「やさしい日本語」研究会. https://easy-japanese.info(参照2021-07-29)
2. NAMI. 「各地の医療通訳派遣実施団体」. https://national-association-mi.jimdofree.com/医療通訳派遣団体リスト-日-英/(参照2021-07-29)

 

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